12月18日(木)、渡辺えり代様(香道家 蓮心流香道家元、日本薬科大学 特命講師、Incense Research Institute 代表)より、お話を伺いましたので概要をお届けいたします。

お香とは何か ― 祈りと癒しの文化

お香は、神々やご先祖に捧げるものとして古代から用いられてきた世界共通の文化です。宗教儀式や祈りの場に欠かせない存在であり、場を清め、人と目に見えない存在をつなぐ役割を果たしてきました。また、邪気払い、精神の鎮静作用、気分の高揚、美容や健康増進、病気の予防など、実用的な側面も持っています。

使い方も多様で、焚くだけでなく、身につけたり、飾ったり、薬として使われることもあり、香水やアロマセラピーの源流ともいえます。ユーラシア大陸ではシルクロードを通じて香木や乳香が重要な交易品となり、西と東の文化を結びつけてきました。

香道とは ― 日本で育まれた「香りを聞く」道

香道は、日本の伝統芸道の1つとして、茶道・華道と同様に室町時代に成立しました。聞香(もんこう)は、一定の作法に従い、香木を温め、立ち上る香りを静かに「聞く」ようにし、香りと向き合い、心身を整えることを目的とします。組香(くみこう)は、複数の香りを聞き分け、その違いや順序を当てる競技的(遊戯的)な要素をもつ形式です。
聞香が内省を重んじるのに対し、組香は知的楽しみを伴う特徴があります。

また、香道には御家流と志野流の二大流派があります。御家流は室町時代、公家文化の中で発展し、優雅で雅な美意識を重んじ、宮廷的で洗練された作法が特徴です。一方、志野流は武家社会で広まり、精神性や規律を重視し、簡潔で凛とした所作を大切にします。
いずれも香木を焚き、香りを「聞く」ことで心を整え、日本独自の香道文化を今に伝えています。

日本のお香文化は、飛鳥時代に大陸から伝来し、聖徳太子とも深く関わっています。縄文時代の香炉の存在、日本最古級のお香文化を伝える飛鳥時代(7世紀)の鵲尾形柄香炉(じゃくびがたえごうろ)からも、日本人が太古から香りを大切にしてきたことがわかります。香道は、香りを通して心を整え、感性を磨き、日本文化の美意識を体感する道です。

伽羅と古代蓮について ― 永遠のいのちを宿す香り

伽羅(きゃら)は沈香の中でも最上級とされる、非常に希少な香木です。現在はほとんど採取できず、千年以上経っても劣化せず、むしろ香りが深まることから「永遠のいのち」を宿すと考えられています。煙を出さず、間接的に温めるなど、最大限の敬意をもって扱われます。

一方、日本の香りでもある古代蓮は、約2500〜3000年もの間地中に眠っていた種が発芽・開花した奇跡の花です。泥の中からまっすぐ天に伸びる姿は、回復力や忍耐力の象徴であり、仏教では悟りと変容を導く聖なる花とされています。蓮の香りは心を浄化し、前向きに生きる力を与えてくれるとされ、香の世界に深い精神性をもたらしています。

渡辺先生がお家元の、蓮心流香道の特徴は、香木だけでなく、飛鳥時代から用いられてきたお焼香(祥香®︎)、平安時代の貴族に愛された薫物、とくに、古代蓮と伽羅を使って熟成させたオリジナルの練香(熟香®︎)を取り入れていて、香十徳(※)を体感できるようなかたちで聞香会を行っています。
*お香の効用や効能を 漢字4文字10項目にまとめたもの。
北宋の詩人「黄庭堅(1045〜1105年)」が記し、室町時代の禅宗の高僧「一休宗純」の書によって広がり、現代に伝えられている。

当日は、渡辺先生の国際的なご活動 Lotus Peace Projectについてのお話もあり、質疑応答も活発に行われました。参加者からは、「お香について興味があったので、参加できて嬉しかった」、「お香に関わる美術品から歴史的な人物のお話、蘭奢待などまで、幅広い内容のお話と質疑応答で、理解が深まった」、「もう少し時間があると良かった」といった感想がありました。

◆次回のサロンは、以下を予定しています。
日 時:2026年2月18日(水)18:00開始
テーマ:雅楽
講 師:日本雅學會 会長 中澤信孝様

※今回の講師 渡辺えり代様のご活動、詳細のプロフィールなどにつきましては、以下をご参考くださいませ。
https://www.arts-wellness.com/